シトルリンマレートの筋肉への効果:最新研究と実践活用法

はじめに : シトルリンマレートとは

シトルリン マレート パウダーの通販|マイプロテイン | Myprotein

シトルリンマレートは、アミノ酸の一種であるL-シトルリンとリンゴ酸(マレート)を組み合わせた化合物です。シトルリン自体はスイカなどの食品に含まれる非必須アミノ酸で、体内で尿素回路に関与し、アルギニンやその他のアミノ酸の代謝と密接に関連しています。

シトルリンマレートは、シトルリンとマレートの相乗効果により、単体のシトルリンよりも高い効果が期待できると考えられています。シトルリンは体内でアルギニンに変換され、一酸化窒素(NO)の生成を促進する役割を担います。一方、マレートはクエン酸回路の一部であり、エネルギー産生に関与しています。

シトルリンマレートの作用機序

一酸化窒素(NO)の生成促進

シトルリンは体内でアルギニンに変換され、一酸化窒素(NO)の生成を促進します。一酸化窒素は血管内皮細胞から産生される物質で、血管平滑筋を弛緩させることで血管拡張作用を持ちます。この作用により、筋肉への血流が増加し、酸素や栄養素の供給が向上します。

興味深いことに、アルギニンを直接摂取するよりも、シトルリンをサプリメントで摂取したほうがより効果的に体内のアルギニンを増やすことが期待できます。これは、アルギニンが経口摂取された場合、消化過程で多くが分解されてしまうためです。

エネルギー代謝の向上

シトルリンマレートのもう一つの重要な成分であるマレート(リンゴ酸)は、クエン酸回路(TCAサイクル)の一部であり、エネルギー産生に関与しています。TCAサイクルは細胞内でのエネルギー産生の中心的な経路であり、マレートはこの過程を促進することで筋肉のエネルギー効率を高めると考えられています。

英国スポーツ医学ジャーナルで発表された研究によると、マレートはTCAサイクルを通じて酸化的ATPの産生を増加させる可能性があります。これにより、運動中のエネルギー供給がより効率的になり、パフォーマンスの向上につながると考えられます。

科学的エビデンスに基づく筋肉への効果

筋力・持久力の向上

スペインのコルドバ大学の研究者たちが行った研究では、41人の男性を対象に実験を行いました。その結果、シトルリンマレートを摂取した被験者はプラセボのみを摂取した時と比較して、53%も多く反復してパフォーマンスを行うことができました。(引用元:Pérez-Guisado J, Jakeman PM. Journal of Strength and Conditioning Research, 2010)

また、英国スポーツ医学ジャーナル(British Journal of Sports Medicine)によると、シトルリンマレートは運動中のエネルギー産生を増加させます。L-シトルリンが一酸化窒素代謝を高めることで、筋肉細胞はより多くの血流、そして酸素と栄養素を得ることができます。

Journal of Strength and Conditioning Researchの研究では、健康な被験者が8グラムのシトルリンマレートを摂取することで、下半身のレジスタンスエクササイズのトレーニング量が増加したことが報告されています。

さらに、日本人を対象とした研究では、22名の男性アスリートがシトルリン2.4gを8日間摂取したところ、運動中のペダル回転強度が高値を示し、特に筋肉の疲れや集中力の欠如に対する効果が確認されました。(引用元:Suzuki T. et al., Journal of the International Society of Sports Nutrition, 2016)

筋肉痛の軽減と回復促進

シトルリンマレートには筋肉の回復を促進する効果も期待されています。コルドバ大学の研究では、シトルリンマレートを摂取すると、筋肉トレーニングをした二日後に筋肉痛を感じる割合が40%も減少しました。

この回復促進効果は、シトルリンマレートが血流を改善することで実現されます。体内で生成される一酸化窒素は血管を拡張させ、血流を促進します。これにより、筋肉への酸素供給が向上し、疲労物質の除去が効率的に行われます。

Journal of Strength and Conditioning Researchで発表された研究では、8gのシトルリンマレートを摂取した被験者は、運動後24時間および48時間後の筋肉痛が40%減少したことが報告されています。

メタ分析からの知見

International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolismに掲載された2021年のメタ分析では、シトルリンマレートが筋力トレーニングのパフォーマンスを向上させる可能性が調査されました。この分析では、二重盲検プラセボ対照試験を対象に、上半身と下半身の抵抗運動中の総反復回数に対するシトルリンマレートの効果が検証されました。

しかし、全ての研究が一貫した結果を示しているわけではありません。2018年、シェフィールド・ハラム大学のChappellらが行った研究では、レッグエクステンションに対するシトルリンマレートの効果を検証した結果、シトルリンマレートを摂取したグループとプラセボを摂取したグループの間に有意な差は認められませんでした。(引用元:Chappell AJ, et al. Journal of Dietary Supplements, 2018)

より広範な研究結果の分析から、Trexlerらは高強度のトレーニングパフォーマンスを高める効果が得られることを示唆しています。ただし、効果的なシトルリンサプリメントの形態や用量、性別、年齢などの詳細な解析は今後の課題だと述べています。

筋肉増強に関する動物実験

ラットを対象にした実験では、他の非必須アミノ酸を与えたグループよりも、シトルリンを与えたグループの方が、除脂肪体重が9%増加し、筋肉量が14~48%増加したという報告があります。また、豚のエサにアルギニンを混ぜた実験では、筋肉量が5.5%増えたという結果も得られています。

シトルリンには脂肪を燃やす酵素の働きを高める作用もあり、上記のラット実験では、脂肪量も13%減少しました。また、豚の実験でも、アルギニン摂取により脂肪量が11%減少したことが報告されています。

これらの動物実験は、シトルリンマレートが筋肉量の増加と体脂肪の減少に寄与する可能性を示唆していますが、ヒトでの効果を直接証明するものではないため、解釈には注意が必要です。

推奨摂取量と摂取タイミング

最適な摂取量

研究結果に基づくと、一般的に推奨されている摂取量は、L-シトルリンの場合は一日3-6グラムほどであり、シトルリンマレートの場合は1日8グラムほどです。この差は、シトルリンマレートがL-シトルリン1グラムとマレート0.75グラムで構成されているためです。

特に筋トレ効果を目的とする場合は、研究では効果的な摂取量は5〜8グラムとされており、トレーニングの約20〜30分前に摂取することが推奨されています。

具体的な目的別の推奨摂取量は以下の通りです:

  • ウェイトトレーニングのパフォーマンス向上:筋トレの1時間前に8gのシトルリンマレート
  • 筋肉中の酸素増加と持久力向上:1日に6g以上のL-シトルリンを7日間継続
  • 血圧低下:1日に3-6gのL-シトルリン

摂取タイミング

効果的な摂取タイミングについては、以下のようなアプローチが推奨されています:

  • 運動前(約1時間前):運動パフォーマンス向上や筋肉痛軽減に効果
  • 就寝前:成長ホルモン分泌を促し、筋肉の修復や成長をサポート

特にウェイトトレーニングのパフォーマンスを向上させたい場合は、筋肉トレーニングを行う一時間ほど前に8グラムほどのシトルリンマレートを摂取することが最も効果的とされています。

実践的なアドバイス

サプリメントの選び方

シトルリンマレート製品を選ぶ際には、以下のポイントを考慮することが重要です:

  1. 純度:シトルリンマレートの含有量が高いものを選ぶ
  2. 添加物:なるべく添加物の少ないものを選ぶ
  3. 価格:効果と価格のバランスを考慮する

シトルリンのサプリメントには、パウダータイプとカプセルタイプ/タブレットタイプがありますが、基本的にはパウダータイプを選ぶのがおすすめです。パウダータイプであれば量の調整やドリンクに混ぜて利用することができるので、とても活用しやすいと言えます。また、同じ量ならパウダーの方がカプセルやタブレットよりも一般的に安価です。

注意点と副作用

シトルリンマレートは一般的に安全性が高いとされていますが、いくつかの注意点があります:

  • 過剰摂取はお腹がゆるくなるなどの副作用を引き起こす可能性があります
  • 妊娠中や授乳中の方、持病のある方は医師に相談の上で摂取することが望ましい
  • 食品表示をよく確認し、アレルギーのある方は原材料を確認してから摂取する

また、シトルリンマレートはクエン酸飲料のような強い酸味があります。この酸味が苦手な方は、オブラートに包むなどの工夫をして摂取することをおすすめします。

他の栄養素との組み合わせ

効果を最大化するためには、他の栄養素との組み合わせも検討できます。例えば、シトルリンによる筋肥大の効果を最大化させる方法として「硝酸塩」との同時摂取があります。シトルリン6gと硝酸塩520mgを同時摂取することでより効果が得られたという報告があります。

硝酸塩は主に緑葉野菜(ホウレンソウ、レタス、ケールなど)に多く含まれているため、これらの食品をシトルリンマレートと一緒に摂取することで、相乗効果が期待できるかもしれません。

まとめ

シトルリンマレートは、筋肉のパフォーマンス向上や回復促進に効果が期待できるサプリメントです。一酸化窒素の生成促進による血流改善と、マレートによるエネルギー代謝の向上という二つの作用機序により、筋力・持久力の向上、筋肉痛の軽減などの効果をもたらします。

最新の研究結果からは、特に高強度のトレーニングにおいてそのパフォーマンス向上効果が報告されていますが、全ての研究で一貫した結果が示されているわけではありません。効果的な摂取量は、シトルリンマレートの場合約8グラム、トレーニングの1時間前に摂取することが推奨されています。

サプリメントを選ぶ際には、純度や添加物、価格のバランスを考慮し、過剰摂取による副作用に注意することが大切です。また、硝酸塩を含む食品との組み合わせによって、さらに効果を高められる可能性もあります。

シトルリンマレートは、効果的な筋トレをサポートする栄養素として期待できますが、バランスの良い食事や適切なトレーニングプログラムと組み合わせることで、最大の効果を発揮するでしょう。

参考文献

  1. Pérez-Guisado J, Jakeman PM. (2010). Journal of Strength and Conditioning Research. “Citrulline malate enhances athletic anaerobic performance and relieves muscle soreness.”
  2. Bendahan D, et al. (2002). British Journal of Sports Medicine. “Citrulline/malate promotes aerobic energy production in human exercising muscle.”
  3. Suzuki T, et al. (2016). Journal of the International Society of Sports Nutrition. “Oral L-citrulline supplementation enhances cycling time trial performance in healthy trained men.”
  4. Trexler ET, et al. (2021). International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism. “Acute Effect of Citrulline Malate on Repetition Performance During Strength Training: A Systematic Review and Meta-Analysis.”
  5. Chappell AJ, et al. (2018). Journal of Dietary Supplements. “Citrulline Malate Fails to Improve German Volume Training Performance in Healthy Young Men and Women.”
  6. Cunniffe B, et al. (2016). Journal of Strength and Conditioning Research. “Acute Citrulline-Malate Supplementation and High-Intensity Cycling Performance.”
  7. 協和発酵バイオ健康成分研究所. (2022). “シトルリンのはたらきと効果-02.運動パフォーマンスアップ”. https://www.kyowahakko-bio-healthcare.jp/healthcare/citrulline/effect02.html
  8. リハビリmemo. (2021). “シトルリンは筋トレのパフォーマンスを高める【最新エビデンス】”. https://www.rehabilimemo.com/entry/2019/04/14/135444

著者について

山野井秀太のアバター 山野井秀太 生物学修士

東京科学大学(旧・東京工業大学)大学院修士課程修了。修士課程では再生医療分野の研究に従事。
ドイツ・アーヘン工科大学(RWTH Aachen University)では医学部の講義を履修し、医学部附属研究室にて免疫系に関する研究を行う。
生物学および医学の知識と研究経験を活かし、医療・美容分野に特化した複数の専門メディアを運営している。