トンカットアリの筋トレ・筋肉への効果:科学的根拠に基づく完全ガイド

はじめに:筋トレをする人に注目されるハーブ成分「トンカットアリ」とは

「マレーシアの人参」とも呼ばれるトンカットアリ(学名:Eurycoma longifolia)は、東南アジアの低地森林に自生するハーブです。特にマレーシア、インドネシア、タイなどで古くから伝統医療として使用されてきました。日本では「ナガエカサ」という名前でも知られています。

このハーブは、精力増強、筋肉増加、ストレス軽減などに効果があるとされ、現代でもその効果を求めて多くの人々がサプリメントとして摂取しています。近年では、筋トレを行うアスリートやフィットネス愛好者からも注目を集め、その効果に関する科学的研究が進んでいます。

トンカットアリの有効成分とテストステロンへの作用

トンカットアリの根には、クアシノイド類やユーリコマノン、ユーリコマラクトン、パサクブミン-Bなどの生理活性成分が含まれています。これらの成分は、特に男性ホルモンであるテストステロンの産生や調整に作用すると考えられています。

科学的研究によれば、トンカットアリは複数の作用機序によってテストステロンに影響を与えます。具体的には:

  • 下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)分泌を促進し、それによって精巣でのテストステロン産生を増加させる
  • ユーリペプチドと呼ばれる成分がCYP450c17やe17酵素の働きを強化し、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とテストステロンの産生を促進する
  • クアシノイドの一種であるユーリコマノンがアロマターゼを阻害し、テストステロンからエストラジオールやエストロンへの変換を抑制する

さらに、トンカットアリはテストステロンと結合しているタンパク質(性ホルモン結合グロブリン:SHBG)からの遊離テストステロン産生を促進すると考えられています。この作用により、体内で活性化するテストステロンの量が増加し、筋肉の成長や回復を促進する可能性があります。

科学的研究が示すトンカットアリの筋肉への効果

筋力向上に関する研究結果

マレーシア国立マラヤ大学の臨床試験では、男性にトンカットアリ抽出エキス末(100mg/日)を摂取させ、8週間のトレーニング後に除脂肪量を測定したところ、プラセボ群と比較して除脂肪量が大きく変化し、体脂肪は減少、最大反復回数、腕外周の増加など筋肉の強度と筋肉量の向上が見られました。さらに筋電図による測定では筋疲労低減も報告されています。

また、米国立医学図書館に掲載された研究では、低テストステロン値(300 ng/dL未満)の50〜70歳の高齢男性105名を対象に、12週間にわたりプラセボ、トンカットアリ100mg、もしくは200mgを毎日摂取させる実験が行われました。その結果、トンカットアリ200mg群では筋力の有意な増加が確認されました。

高齢者を対象とした別の研究では、25名の体力のある高齢者にトンカットアリを5週間の間1日400mg摂取してもらい、握力測定を通して筋力を測定した結果、平均して開始前の30kgから34kg程度と筋力が強くなっていることが確認されました。

テストステロン増加と筋肉量の関係

アンドロゲン欠乏症の加齢男性(ADAM)45名を対象とした6か月間の二重盲検プラセボ対照ランダム化試験では、被験者を4グループ(1:対照+プラセボ、2:対照+トンカットアリ、3:並行トレーニング+プラセボ、4:並行トレーニング+トンカットアリ)に分け、毎日200mgのトンカットアリ摂取と週3回60分の漸進的強度でのトレーニングを組み合わせた効果を検証しました。

その結果、トンカットアリとトレーニングを併用したグループが最も顕著な改善を示し、テストステロン値の増加と筋力の向上が確認されました。この研究から、適切なトレーニングとトンカットアリの併用は、テストステロン値の低下した男性の筋力向上に有効である可能性が示唆されています。

回復と抗疲労効果

トンカットアリにはストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを低下させる効果も報告されています。中程度のストレスを抱える63名の被験者(男性32名、女性31名)を対象とした4週間の研究では、トンカットアリ摂取グループはプラセボグループと比較して唾液中のコルチゾールが16%減少し、テストステロンレベルが上昇しました。

若年男性を対象とした別の研究では、トンカットアリの摂取と筋力トレーニングを組み合わせることでピークパワー出力が向上することが報告されています。これらの結果から、トンカットアリはトレーニングからの回復を助け、筋肉のパフォーマンスを向上させる可能性があります。

トンカットアリの推奨摂取量と使用方法

科学的研究に基づくと、トンカットアリの効果的な摂取量は以下のように考えられています:

テストステロンの上昇および筋肉量増加効果を期待する場合、1日あたり200mgが目安となります。トンカットアリに関する毒性試験の結果では、一日許容摂取量(ADI)は体重60kgの成人1日あたり最大1.2gと報告されており、これは効果を示す摂取量200mgの6倍にあたります。

トンカットアリはマカや他のハーブ成分と比較して希少性が高く、体内の巡りを整える作用が強いと考えられています。サプリメントとして摂取する場合は、1日2回に分けて摂取するのが効果的とされています。

さらに、トンカットアリの男性へのサポート力を引き出すには、アルギニンを吸収しやすくするビタミンB6や、男性機能に関わりがある亜鉛などとの同時摂取が推奨されています。

筋トレとの併用方法

トンカットアリはアスリートにとって、正常なコルチゾール/テストステロンバランスを維持し、オーバートレーニング症候群を予防し、体組成を改善し、運動後の回復を促進するのに役立つ可能性があります。

効果的な併用方法としては:

  1. トレーニング前の摂取: トレーニング前に摂取することで、エネルギーレベルを向上させ、トレーニングのパフォーマンスを高める
  2. トレーニング後の摂取: 回復を促進し、筋肉の成長をサポートするために、トレーニング後に摂取する
  3. 継続的な摂取: 研究では数週間から数ヶ月の継続摂取で効果が確認されているため、一定期間の継続摂取が推奨される

考慮すべき注意点

トンカットアリの効果は個人差があり、特に既に健康的なテストステロンレベルを持つ若い男性では、テストステロンの上昇効果が限定的である可能性があります。例えば、健康な若年男性を対象とした研究では、1日600mgという比較的大量のトンカットアリを2週間摂取した結果、テストステロンが15%増加したという報告がありますが、この増加は体組成に有意な影響を与えるには小さすぎる可能性があります。

また、サプリメントは医薬品とは異なり、身体への構造や機能への影響を表示することは原則認められていません。そのため、健康の補助として使用し、特定の疾患に対する診断・治療・予防・軽減を期待せずに摂取することが推奨されます。

トンカットアリ自体の研究からは大きな副作用の報告はありませんが、市場に出回るトンカットアリを謳った製品の中には、健康被害のおそれがある成分を混入させたケースも報告されています。購入の際は信頼できるメーカーの製品を選ぶことが重要です。

まとめ

トンカットアリは、テストステロンの増加や筋肉の成長、さらには精力向上やストレス軽減といった幅広い健康効果を持つ、注目すべきハーブ成分です。特に男性にとっては、活力とパフォーマンスを高める自然なサポートとして、筋トレや体力向上に役立つサプリメントになる可能性があります。

科学的研究からは、特に中高年男性やテストステロンレベルが低下している男性において、適切なトレーニングとの併用でより効果的に筋力や筋肉量の向上が期待できることが示唆されています。

ただし、効果の程度には個人差があり、すべての人に同様の効果があるわけではありません。トンカットアリを摂取する際は、推奨摂取量を守り、必要に応じて医療専門家に相談することをお勧めします。

参考文献

  1. Leisegang K, et al. “Eurycoma longifolia (Jack) Improves Serum Total Testosterone in Men: A Systematic Review and Meta-Analysis of Clinical Trials.” Medicina, 2022; 58(8): 1047.
  2. Leitão AE, et al. “A 6-month, double-blind, placebo-controlled, randomized trial to evaluate the effect of Eurycoma longifolia (Tongkat Ali) and concurrent training on erectile function and testosterone levels in androgen deficiency of aging males (ADAM).” Maturitas, 2021; 145: 78-85.
  3. Henkel RR, et al. “Tongkat Ali as a Potential Herbal Supplement for Physically Active Male and Female Seniors—A Pilot Study.” Phytotherapy Research, 2014; 28(4): 544-550.
  4. Chinnappan SM, et al. “Effect of Eurycoma longifolia standardised aqueous root extract-Physta® on testosterone levels and quality of life in ageing male subjects: a randomised, double-blind, placebo-controlled multicentre study.” Food & Nutrition Research, 2021; 65.
  5. Talbott SM, et al. “Effect of Tongkat Ali on stress hormones and psychological mood state in moderately stressed subjects.” Journal of the International Society of Sports Nutrition, 2013; 10(1): 28.

著者について

山野井秀太のアバター 山野井秀太 生物学修士

東京科学大学(旧・東京工業大学)大学院修士課程修了。修士課程では再生医療分野の研究に従事。
ドイツ・アーヘン工科大学(RWTH Aachen University)では医学部の講義を履修し、医学部附属研究室にて免疫系に関する研究を行う。
生物学および医学の知識と研究経験を活かし、医療・美容分野に特化した複数の専門メディアを運営している。